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福島地方裁判所 昭和47年(レ)5号 判決 1972年7月03日

控訴人 伊達不動産株式会社

右代表者代表取締役 谷川俊雄

右訴訟代理人弁護士 土屋芳雄

同右 今泉圭二

同右 大河内重男

被控訴人 井上雄三

主文

原判決中控訴人敗訴の部分を取消す。

被控訴人は控訴人に対し金三万円を支払え。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴人は、主文第一、二項同旨および「控訴費用は被控訴人の負担とする」との判決を求め、被控訴人は当審での口頭弁論期日に出頭せず、答弁書その他の準備書面も提出しなかった。

当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠関係は、左記に附加するほかは原判決事実摘示のとおりであるからここにこれを引用する。

控訴人の主張

被控訴人は、控訴人所有の福島市野田町字下江添一〇番五および一〇番六の土地と被控訴人所有の同所一一番五の土地との境界が原判決添付図面(イ)(ロ)点を結んだ線であり、同図面(イ)(ロ)(ろ)(い)(イ)点を順次結ぶ線で囲まれる土地(以下本件係争地という)が控訴人の所有であることを確定的にあるいは少なくとも未必的には認識しながらこれを侵奪しようとして占有するに至ったものである。控訴人は被控訴人の右不法行為により生じた違法状態を現状に回復するため本訴の提起を余儀なくされ、訴訟の追行を弁護士に委任し、弁護士費用金一〇万円の支払を約しているから、控訴人は被控訴人に対し本件における損害として金三万円の支払いを求める。

理由

一  当裁判所は、控訴人所有の福島市野田町字下江添一〇番の五、六の土地と被控訴人所有の同所一一番の五の土地との境界は原判決に判示されたところと同一であると考えるが、その理由は左に付加するほかは原判決理由記載と同一であるからここにこれを引用する。

≪証拠省略≫を総合すると左の事実が認められ、これに反する証拠はない。

1  東西に順次隣接する福島市野田町字下江添一〇番四ないし七の土地と、その北側に接して同じく東西に順次隣接する同所一一番三ないし五、一一番一、二の土地との境界は、公図上東西に延びる一直線をなすものと表示されている。

2  訴外国華酒造株式会社が同所一〇番四ないし六の土地を買受けた昭和二六年当時、同社の土地管理にあたっていた訴外小斎正保は、前所有者からその境界につき各要所を一巡して指示されたうえ、右境界は同所一〇番七の土地と一一番二の土地との境界西端にあった界標を起点に東方へ一直線をなしている旨教えられた。

3  当時から原判決添付図面(A)(イ)(ロ)の各地点にも右と同様の界標があって、これらはその後移動しておらず、右(A)(イ)(ロ)点を結ぶ線は直線をなし、これと右小斎が指示された境界線とは一致している。

4  その後被控訴人は昭和三二年一一月前主から同所一一番の五の土地を買受け、次いで同四五年六月ころ、控訴人が前記訴外会社から同所一〇番四ないし六の土地を買受けたのであるがその間本件係争地付近の土地所有者間において特段境界につき争いがなかった。

二  そこで弁護士費用を損害としてその賠償を求める控訴人の本訴請求の当否について判断する。

昭和四五年六月ころ、控訴人の前主である前記国華酒造が同所一〇番四ないし六の土地に築造されていた家屋を取毀すや被控訴人が本件係争地に草花を植栽するなどしてこれを占有し始めたこと、右土地を買受けた控訴人が再三原状回復方を要求したにもかかわらず、被控訴人は右境界を認めず、そのため控訴人は本件訴訟代理人を選任して本訴提起のやむなきに至ったことの各事実は、被控訴人が明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。また、≪証拠省略≫によれば、控訴人は、本件訴訟代理人に対し、勝訴判決が確定したとき成功報酬として金一〇万円を支払う旨約したことが認められ、これに反する証拠はない。

控訴人は、被控訴人は本件係争地が自己の所有地内にないことを確定的にあるいは少なくとも未必的には認識しながらこれを侵奪しようとしたものであると主張し、被控訴人はこれを争うので判断するに、控訴人の立証その他本件全証拠によるも右控訴人の主張する事実の存することを断定することはできない(被控訴人は控訴人方の土地の実測面積が公簿面積より多いのは被控訴人方の土地を侵食した結果であると考えたもののごとくである)けれども、前記認定した事実に照らすと、被控訴人において多少慎重な調査をするならば被控訴人は右一一番五の土地を買受けた当初から同地と同所一〇番五、六の土地との境界を示すものとして原判決添付図面(イ)(ロ)の各地点に界標が設置されていることなどは容易に知ることができ、ひいては右境界が原判決添付図面(イ)(ロ)点を結ぶ直線であることを認識したであろうことは十分窺うに足り、社会通念上被控訴人の本件係争地の占有は少くとも被控訴人の重大な過失に基づくものと認めるのが相当である。

そうだとすれば、控訴人は被控訴人に対し、本件訴提起のために要する弁護士費用を本件不法占有により生じた損害として、その賠償を請求できるものであるところ(最高裁昭和四四年二月二七日判決、最高裁判例集二三巻二号四四一頁参照)本件事案の難易、審理の経過、当事者双方の申立、これに対する裁判所の判断等諸般の事情を斟酌すれば、控訴人が本訴において請求する金三万円は右弁護士費用として相当な範囲内にあるものと認められる(なお、本件においては、控訴人は不法状態を除去解消するため、もっとも有効かつ適切な方法としては本件係争地の所有権確認、その返還あるいは妨害排除等を求める訴を提起すべきではあるが、実質的にその救済を求めうるものであれば、その訴の類型いかんは問うところではなく、特に境界確定の訴が不法占拠に起因する当事者間の紛争を実質的に解決する機能を果している現状に着目すれば、右訴訟に要する弁護士費用は、右返還請求等の訴のための弁護士費用と全く同様と考えてしかるべきである)。

三  以上のとおり、控訴人の本訴請求は理由があるから、原判決中控訴人の被控訴人に対する三万円の損害賠償請求を棄却した部分は失当であり、右部分に対する本件控訴は理由がある。よって、原判決中控訴人敗訴部分を取消し、右請求を認容することとし、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 畠澤喜一 裁判官 岩井康倶 久保内卓亜)

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